リコンビナント抗体がどのようにしてラボでの時間を節約するか

遺伝子配列を基に作製されるリコンビナント抗体には、従来のモノクローナル抗体やポリクローナル抗体に比べて大きなメリットがあります。また、頑健なバリデーションを行うことで、時間を節約し、再現性を向上させることができます。

この記事は、2023年6月にNature誌に公表されたものです。

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記事は7分程度でお読みいただけます 抗体は、研究において最も重要なタンパク質検出試薬ですが、驚くべきことにその信頼性は低い可能性があります。世界的な研究用試薬メーカーアブカムの研究開発部門のシニアバイスプレジデントのSolache氏は「抗体の製造・検証方法の多くは、本来あるべきほど頑健ではないことが多く、研究者にとって多くの問題を引き起こしています」と、述べています。

特異性の欠如およびバッチ間のばらつきは、誤解や一貫性のない結果を招き、前進を妨げる可能性があります。このような問題により、研究の結論が揺るがされ、論文の撤回や製品の撤退にさえ至る可能性があります2

研究者が使用する抗体のほとんどは、ポリクローナル抗体(免疫動物の血清に由来する抗体の混合物)またはモノクローナル抗体(単一の特異的クローンに由来する抗体のプール)です。ポリクローナル抗体は、別の動物に再免疫するとバッチ間のばらつきが生じやすくなります。一方、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマにおける抗体の発現が経時的に変化し、特異性が低下する可能性があります3

2015年、抗体エンジニアリング会社Specificaの最高科学責任者であるAndrew Bradbury氏は、Nature 誌に、再現性の向上のためにリコンビナント抗体を使用するよう研究者に呼びかけるコメントを書きました4。この記事は、研究用試薬会社に対する警鐘となりました。「確かにポリクローナル抗体や従来のモノクローナル抗体からリコンビナント抗体への切替えが見られました。」と、Bradbury氏は指摘します。しかし、その価値は本当に評価されているのでしょうか?

「研究者がこれらの抗体の固有のばらつきの程度を知っていたなら、遺伝子組換え(リコンビナント)により製造される抗体にすぐに切り替えたでしょう」

アブカムの研究開発部門のシニアバイスプレジデント、Alejandra Solache氏


リコンビナント抗体のメリット

リコンビナント抗体により、ポリクローナル抗体や従来のモノクローナル抗体に関連する多くの問題を防ぐことができます。「研究者がこれらの抗体の固有のばらつきの程度を知っていたなら、遺伝子組換え(リコンビナント)により製造される抗体にすぐに切り替えたでしょう」と、Solache氏は述べています。

リコンビナント抗体は、特定の抗体遺伝子をin vitroでベクターにクローニングすることにより作製されるため、その発現が制御され、一貫性と再現性が向上しています。さらに、遺伝子配列が既知のため、何度も繰り返し使用できます。「抗体が数年にわたって同じように機能することを知ることで、安心感が得られます」と、Solache氏は付け加えます。

さらに、リコンビナント抗体には研究者のニーズに合わせてテーラーメイドできるというメリットがあります。親和性、機能性、特異性を向上させるために遺伝子操作をしたり、同じターゲットの異なる部位に対する抗体を混合してカクテル化したりすることができます。このようなアプローチは、構造、配列、または発現レベルが低いために検出が困難なタンパク質を扱う場合に有用です。

もちろん、別のメリットもあります。「実験動物やハイブリドーマ細胞株ではなく、抗体ライブラリーと最新のDNA技術を用いたリコンビナント抗体のin vitroでの製造は、動物由来製品を避けたいお客様にとっては特に魅力的です」と、Bradbury氏は付け加えます。


各ステップのバリデーション

このような優れた試薬を使用したとしても、頑健なバリデーションと品質管理は不可欠です。「アブカムでは、抗体の特異性を確認するためにきわめて多くの作業を行っています」と、Solache氏は説明しています。

当社は、ノックアウト細胞株を用いて交差反応性の可能性を排除しています。さらに最近、質量分析法、高速液体クロマトグラフィー、動的光散乱法などの生物物理学的品質管理法を導入し、同一性および純度の判定、活性を損なう可能性のある凝集体の検出を行っています。

「アブカムでは、抗体の特異性を確認するために非常に多くの作業を行っています」

Alejandra Solache氏

アブカムは、ノックアウト検証された4,500を超えるリコンビナント抗体を扱っており、世界中の組織と協力して、一貫性のある高品質の試薬を開発して供給しています。このような抗体は、若年性パーキンソン病5、急性肺疾患6 、がん7など多くの疾患に対する理解を深め、治療ターゲットの候補を明らかにするために使用されています。

リコンビナント技術がより速く、より安価になるにつれ、主要な製造方法になっていくだろうとBradbury氏は考えています。「抗体医薬品が製造されている方法で研究用試薬を製造すれば、研究結果はより迅速に、より再現性のあるものになります。また、まったく同一の試薬を使用できるのなら、論文の撤回件数は減る可能性が高いです」



参考文献

1. Cox, T.R. et al. Nature 617, 208 (2023).
2. Fonseca, S.G. et al. Nature Cell Biol 17, 105 (2015).
3. Bradbury, A. R. M. et al. mAbs 10, 539–546 (2018).
4. Bradbury, A. & Plückthun, A. Nature 518, 27–29 (2015).
5. Laperle, A.H. et al. Nature Med 26, 289-299 (2020).
6. Hsu, C.G. et al. Cell Death Differ 29, 1790-1803 (2022).
7. Yuan, L. et al. Cell Death Differ 29, 1513-1527 (2022).

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